前臨床試験
選択的に黒質ドパミン神経細胞を傷害する神経毒を投与して作製したパーキンソン病モデル動物を使用して前臨床試験が行われました。6-hydroxydopamine (6-OHDA)を黒質線条体路に注入したラット、およびと1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)を慢性的に全身投与したカニクイサル(Macaca fascicularis)の線条体に、ドパミン合成に必要な三種類の酵素遺伝子を各々発現するAAVベクター(AAV-TH、AAV-AADC、AAV-GCH)を注入して、ドパミン産生と運動障害の改善効果を検討しました。 6-OHDAモデルラットの線条体にAAV-TH、AAV-AADC、AAV-GCHを3か所に分けて注入した場合、遺伝子導入された細胞の95%以上は抗神経細胞でした。運動症状の改善効果と導入した遺伝子の発現は18か月後にも持続していました (Shen et al. Hum Gene Ther, 2000)。
カニクイサルのMPTPモデルにおいても、AAVベクターによるドパミン合成系の酵素遺伝子(TH、AADC、GCH)を線条体で発現させることにより動作緩慢・筋強剛・振戦などの運動障害の改善効果が得られました (Muramatsu et al. Hum Gene Ther, 2002)。
臨床研究
2007年に自治医科大学でAADCを発現するAAVベクターを両側の被殻に投与する臨床研究が実施されています。安全性の確認を目的とした少数例での試験ですが、6か月後の評価で運動症状の改善効果が得られています。AADCに結合する [18F]fluoro-m-tyrosine (FMT)をトレーサーとして使用したpositron emission tomography (PET)では, 遺伝子導入5年後にもベクター注入部位を中心にFMT集積が増加しておりAADCの発現が持続しています。(Muramatsu et al. Mol Ther, 2010)。